考古学は遺物、遺構を細やかに観察し、そこで得られたデータを丁寧に記録することが起点となる。人文科学としての考古学は発掘された物質の特徴を読み解くことで、仮説を立て、古代から届いたメッセージを実証へと導く学問である。事実に即した厳密なあり方を貫くその姿勢は学として踏み込むことをためらう不確かなフィールドの存在を顕わにする。
本展覧会は考古学の営みのみでは到達することができない不可視な世界をアートの力で可視化させることを企てたものである。それはプロジェクトメンバーたちが大阪府立近つ飛鳥博物館に展示されていたモノ(水鳥形埴輪)やコト(葬送儀礼)等に興味を持ち、古代人の思惟のあり方に想いを馳せることから始まった。グランドテーマの礎はこの世とあの世の境界を認識し、往還しようとした古代人のイマジネールであり、その彼方にある異界の景色と向き合いたいという気持ちであった。古代人が生(此岸)と死(彼岸)の関係性を架橋させるために霊魂観や他界観の概念を構築したことは畏怖と安堵の感覚を循環させ、両者をしなやかに繋ぐ回路を作動させたのではないか。
今回の企画は、見えない世界を追い求めるがゆえに極めて不思議な空気が漂う。それは影や光が揺らぐ虚ろで儚い表現であり、いにしえの人々の瞳に映し出されたであろうイマージュの群れである。また、人間×鳥、或は物(円筒埴輪、煤が付いた土器)の世界がシンクロし、論理を逸脱、錯綜することで獲得した奇異なナラティブ(物語)を紡ぐことを促す作品やワークシップで構成される。
カオスと化した時空としばし交感すれば、そこに宿された力が創造の源泉として機能し、人類の思考モデルを飛躍させたことに気付く。新たな視座で古代を見つめることは次代のクリエイティビティを拓く尊き手掛かりになるのではなかろうか。
総合監修/谷 悟
大阪芸術大学 芸術学部 芸術計画学科 教授
(アートプロデュース研究領域/アートプランニング研究室)
古代人のイマジネールと
交感し、異界の扉を拓く
飛来し、
そして飛翔してゆく鳥たち
初冬、学⽣が⼟を練り、円筒埴輪をつくり始める朝、⼤学内の池で⽔⿃たちと遭遇した。無数の波紋が描かれる⽔⾯に佇み、降り頻る⾬を凌いでいるかの様に⾒えた。遥か遠い⽇、この様な景⾊が確かにあったであろう。
近つ⾶⿃プロジェクトは、今年で6回⽬を迎える。毎年度1つのテーマを掲げ、埴輪、勾⽟、銅鏡、⼟器、⽯室(遺構)を探求してきた。4回⽬(2023年
度)からは「アートと考古学の対話 次世代からの問いシリーズ」と題し、学⽣たちが主体となり、展覧会の企画運営のみならず、いにしえと今を繋ぐ試
み、作品制作を通し、「⼈間とは何か」を考えながら積極的な取り組みを継続している。
これまで芸術計画学科は、アートサイエンス学科、美術学科彫刻コース、⼯芸学科⾦属⼯芸コース、陶芸コースにて、制作の場や技術指導、そして多⼤なご協⼒を賜り、展覧会の具現化へと繋げてきた。
河南町教育委員会より収蔵品である東⼭遺跡、神⼭畑⽥遺跡の出⼟品などを借
⽤し、地域の豊かな⽂化財を活かす連携の機会をご継続頂いている。河南町住⺠の⽅々のご理解、ご協⼒を頂き、出品作品の焼成を野焼きで実現するに⾄った。⼤地を耕し、⽕を起こし、薪を焚べ続ける。冬の澄んだ空気、太陽は傾き、雲は⾵に流れ、炎はまるで⽣き物の様に舞い、作品を包んだ。パチパチと⾳を⽴てながら⽕の粉は宵闇迫る空へと舞い上がった。そんなひと時が私たちを想像の彼⽅へと誘ってくれる気がした。
⾶翔してゆく⿃たちの⾒る、その先の景⾊はどんなだろうか。
作品制作監修/山村 幸則
大阪芸術大学 芸術学部 芸術計画学科 教授
(アートプロデュース研究領域/超域アート研究室)
