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“脈打つ情景”と化した近つ飛鳥風土記の丘、ここに現る

 国の史跡公園に指定された近つ飛鳥風土記の丘には6世紀中頃から7世紀前半に造営された一須賀古墳群があり、102基が保存、約40基の横穴式石室を見学することができる。 そこは豊かな自然と歴史遺産、大阪府立近つ飛鳥博物館が三位一体となり、古代と濃密に対峙できる類い稀な場所である。

 我々は近つ飛鳥風土記の丘を訪れる度にこの世とあの世が交錯する間(あわい)の地が漂 わせる特異な空気感に魅了された。ここは夥しい数の御魂が葬られた場であるが、同時に多 様な生き物たちが命を宿し、この聖域そのものを常に息吹かせる生態系が育まれているこ とをあらためて認識した。その力は古代人の記憶をも内包した近つ飛鳥風土記の丘を優し く目覚めさせてくれるような気がしてならないと感じたのだった。

 今年度の展覧会は特別展示室での開催となったが、近つ飛鳥風土記の丘の臨場感をそのまま生け捕りたいと思い、360度カメラを用いて創作をおこなう村山直子氏に撮影を依頼し た。巨大パノラマ写真が織り成す眺めとともにプロジェクトメンバーたちが採録したサウ ンドスケープを加えることで、目と耳で響き合うインスタレーション表現として構成する ことにした。

 また、この空間にはいにしえに生きたヒトの気配やモノの語りを写真の力で可視化しよ うとする立松侑也氏が撮影・編集した映像も投影する。あらゆるものを覚醒させるかに見える木漏れ日や鉄の副葬品に錆を吹かす力に溢れるエナジーをイメージする行為は私たちの内部でも“脈打つ情景”が拓かれていることを実感できるのではないだろうか。

 本展覧会はアート表現のみならず、考古資料も共に展示することで“学と芸”の相互作用を 生じさせ、この世界に没入するあり方を試みた。それは深いレベルの交信を促し、私たちの 内奥で蠢き続ける意識とシンクロする回路を目指すことを意味する。ほの暗い博物館の展示空間と近つ飛鳥風土記の丘でおこなうワークショップを通じ、遙かなる彼方とゆっくり と繋がる魅惑的な時間をぜひ体感して欲しい。

総合監修/谷悟

大阪芸術大学 芸術学部 芸術計画学科 教授
(アートプロデュース研究領域/アートプ
ランニング研究室)

⾵と⼟に記された丘

 昨年、私は⼭道を登り、連なる⽯室と1本の樹を前に、晩秋の近つ ⾶⿃⾵⼟記の丘に⽴った。⻩⾦⾊の葉は⾵に揺れ、⻘空を舞った。 ⼀瞬⼀瞬が極めて美しく、愛おしく、移りゆく季節のひと時に、今 を⽣きる喜びを⾝体全体で感じた。

近つ⾶⿃の地に花が咲き、⽊々は芽吹き、葉は⻘々と⽣い茂り、彩り豊かな⾊を成し、やがて⼤地に落ちて⼟へと還る頃、⼩さな蕾は 次の春を待つ。

ゆったりとかつ繊細な季節の移り変わりと循環が、⼤学の⼩⾼い丘 や⾵⼟記の丘でも脈々と繰り返されている。 今から約30年前に、⼤阪芸術⼤学内の東⼭遺跡から剣・斧・⼑⼦・ 鏃などの鉄製品が出⼟した。かつての輝きを覆う錆こそが、いにしえから今に⽣きる証の様に思えてならない。

 昨年度は、学⽣たちと共に⼟と向き合い、⼟器をつくり続けた。 ⼟器に⿎動を宿し、その⼼⾳や息遣いが展覧会場に響いた。今年度 は、学⽣たちの異なった視点から、いにしえに眼差しが注がれた。 思考を重ね、⼤学から博物館へ、遂には⾵⼟記の丘へと活動を拡張 し、⾎の通うプロジェクトが計画されている。

 

⾵⼟記の丘を⽣け獲りにするという脈打つ情景をこの⽬で確かめたい。
                                   

作品制作監修/山村 幸則

大阪芸術大学 芸術学部 芸術計画学科 教授 

(アートプロデュース研究領域/超域アート研究室)

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