土器は忘却に逆らい、今に生きる
土器は機能により種類が分類され、穀物等を貯蔵する壺、食料を煮炊きする甕、料理を盛り付ける鉢をはじめ、祭祀や儀礼の場で
供献する際に用いる高杯や死者を埋葬する甕棺など実にバラエティに富む。人間の生活に寄り添っていた土器は生きるための欲望や意志、
或は喜怒哀楽を宿している遺物とは言えないだろうか。
人と親密な関係にあった土器には様々な想いが内包されており、我々が真に問いかければ、応じて答えてくれる。大阪芸術大学キャンパス
内にある東山遺跡から発掘された長頸壺に眼差しを注げば、非常に小さい底部、左右に拡がるゆるやかなライン、天に向かって伸びる頸部、
それらが合わさることで姿を現すS字曲線は保存のための用を極め、同時に美を放つ臨界点を本能的に探る人がいたことを教えてくれる。
それは古代人の叡智と豊かな感性が確かにあったことを饒舌に語られたようであり、強く心が揺さぶられる。
「時ノ壺 令和大壺」は山村幸則(美術家)が我が大学から出土したこの長頸壺に感動をおぼえ、それを手本に創作し続ける作品である。
彼は手を動かしながら土器の記憶をほどき、それを制作の核として活かしつつ、独自の手法を思案する。
完成させたものをただ展示するのではなく、会期中、“新たな土器を生むための行為”を毎日届けることで、
作家が感覚を研ぎ澄まし、応答を試みる姿に出会う場を創出させた。
今回の企画は芸術計画学科近つ飛鳥プロジェクトチームのメンバーたちが構想、制作したものであり、土器と向き合うことができる発想や
技術が盛り込まれている。この展示空間は我々と土器の距離感を徐々に縮め、応答し合うことを促す。あなたが土器に語りかけ、
深く繋がりさえすれば、土器は忘却に逆らい、今に生きる。ここに集う人々がそれをリアルに実感できる展覧会になることを願ってやまない。
総合監修/谷悟
大阪芸術大学 芸術学部 芸術計画学科 教授
(アートプロデュース研究領域/アートブランニング研究室)
時ノ壺 令和大壺
大学の小高い丘の上に寒風が吹きつけ木の葉が舞う。悴む手で土を混ぜ、練り合わせていると、やがて陽光が差し、鳥たちが帰る。違い日の
この丘の空気、匂い、色や温度、音とはどんなだったろうか。
今から約30年前に、大阪芸術大学内の東山遺跡の緊大式住居跡から長頸壺が出土した。掌に収まる程の大らかで淑やかなその土器を元に、私は大学にて拡大制作を始めた。そして、近つ飛鳥博物館での本展会期中、人の背丈を目標に毎日制作し続ける。土を紐状に伸ばし、手捻りで慎重に一段ずつ積み上げてゆく。叩き板と当て具で土を締める律動を繰り返す。それはまるで呼吸する様に、日々人生を重ねる様に、指先の感覚が
身体全体へ、時空を超えることを信じて、土を積み重ねてゆきたい。
2023 年師走、雪が舞う中、野焼きを行った。土器たちは河南町東山の土を内合し、その地で炎に包まれた。若葉が眩しい季節から近つ飛鳥博物館、風土記の丘を幾度も訪れ、往古来今に想いを馳せ、学生たちが主体となり土器といにしえの人々と向き合い続け今日に至る。かって炎によって得た形は悠久の時を超えて、私たちと出逢い、呼応し始めている。
「時ノ壺 令和大壺」制作・作品制作監修/山村 幸則
大阪芸術大学 芸術学部 芸術計画学科 教授
(アートプロデュース研究領域/超域アート研究室)